焼き物屋のむすめ

備前焼作家、の娘からみる焼き物のあれこれを綴っていきたいと思います。

窯焚き奮闘記

今年もやってきました、窯焚きシーズン!

 

窯焚きとは、作陶における焼成の段階。

成形、乾燥させた作品を登り窯でおよそ14日間焼成します。

温度は最高で約1250℃。

備前の粘土は急熱急冷に弱いため約2週間という時間をかけてゆっくりと焼いていく必要があるのです。

 

 

 

燃料は赤松の割木

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どどん!

 

数にして約1万本。これをひたすらくべていきます

 

お参りをして・・・

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準備万端!

 

 

最初はここから入れてゆっくり燃やしていきます

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ある程度温度が上がってきたらこちらからどんどん割木を入れていきます。

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炎が燃え盛ります。

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この時窯の中の温度は約1000℃

 

父のちょっと後ろから撮影しているのですがとにかく暑い!

動画も撮ったりしていましたが、肌が焦げる感じがして20秒もいられませんでした・・・

しかし割木はこの期間になると10分から15分に一回くべていかなければなりません。

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うおお…炎との闘い

 

もう最近夜はかなり冷え込みますがみんな汗だくです。

 

ここで父に質問

「温度を上げていくのに、何本割木を入れたらどれくらい上がるとか、あるの?」

 

「そりゃあはっきりは決まっとらん」

 

「えええ。じゃあ温度上がらないとかそういうことにならないの?」

 

「しょっちゅうじゃ。去年と同じように入れても上がらん時は上がらん。

まあそこが自然との闘いやな」

 

今まで何回も窯を焚いてきていますが、同じ時期に同じように焚いても、窯焚きの経過は毎回違うそうです。

 

燃料の状態や外気温の違いなのか?と聞いてみましたが

そういうことでもないらしく、多くは語ってもらえませんでした。

おそらくそれぞれのやり方とかコツがあるんでしょうね。

「経験と勘」を頼りにやっていくのが窯焚きというもののようです。

 

 

焚き始めて10日目。

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最初は真っ黒な煙が出ていましたが、煙がだんだん白くなってきました。

窯が上がりに近づいている証拠です。

 

 

夜通し窯焚きをするので交代制でお手伝いさんに来ていただいているのですが、そのご飯づくりに母も奮闘しています。

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そして10月24日午前2時30分

無事窯焚き終了。

今回は比較的スムーズに温度が上がり、13日間の窯焚きでした。

 

子供のころは、「窯焚き中は毎日ご飯が豪華でいいなあ」とか

「窯焚き期間中はお父さんは窯で頭がいっぱいだから夜帰るのがちょっと遅くなっても怒られないや♪」

とか思っていたものですが、改めて大人になってそばで見ていてその大変さを感じた2週間でした。

 

ここからしばらく冷却期間

どんな作品がでてくるか楽しみです。

 

 

 

 

 

焼きとその技法2

 

備前焼の「焼き」のお話、今回は備前焼作家松井浩之の特色ある焼きについてご紹介したいと思います。

 

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黒襷(くろだすき)

 

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黒襷ビアマグ

グレーがかった肌に黒いキリっとしたラインが走っています。

このラインは作品に巻き付けた藁の燃え跡。

 

前回紹介した緋襷と製法がよく似ています。

 

matsu-hiro244.hatenablog.com

 

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どちらも作品に藁を巻き付けて焼いていますが、黒襷の方は酸素を少なくし燻すように焼きます。

藁を巻き付けた部分は酸素を多くして焼けばオレンジに近い色に、少なくして焼けば黒色に発色します。

 

この藁のライン、緋襷に比べかなりつけるのが難しいといいます。

ラインがつく前に藁が燃え尽きて落ちてしまうからです。

なので作家は藁の巻き方や温度調整の工夫をし、なんとかきれいな黒いラインを出せるようになってきたそうです。

 

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従来の備前の色とは一味違う無機質な色味で、モダンな雰囲気を楽しむことができます。

 

藍彩(あいさい)

 

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藍彩花入


一見備前焼とは思えない、深いコバルトブルーの色が非常に美しい焼きです。

 

この色は、土に顔料を混ぜ込んで焼き発色させたもの。

備前の窯で焼くことで、温度の違いによって色が淡い部分、深い部分ができたりと、同じコバルトブルーの焼きでも様々な色合いを楽しむことができます。

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藍彩湯呑。炎の当たり方や灰のかかり方によって様々な景色が現れる。

 

 

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藍彩徳利。藍色と黄色みがかった胡麻の組み合わせが楽しめる。

 

備前焼本来の味を生かしつつ、今までとは全く違う色を掛け合わせた斬新な焼きです。

 

 

練上(ねりあげ)

 

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マーブルの模様が、かわいらしくオシャレな雰囲気を演出しています。

 

このマーブル模様は備前の土と磁器系の白い土を練り混ぜ、ろくろでひくことで現れます。

 

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焼成前はこんな感じ。

 

 

こちらも温度、火の当たり方の違いによって、白っぽい部分、オレンジが深い部分など変化が現れます。

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練上飯茶碗

 

模様の出方も様々です。

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人気はカップ類。

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「和」のイメージが強い備前焼ですが、洋食器にもこの練り上げはぴったりです。

 

以上3つが、備前焼作家松井浩之の特色ある「焼き」です。

備前焼の中に受け継がれている伝統美を大切にしつつ、現代の生活も溶け込む作品」

というのが作陶のコンセプトです。少しでもお伝え出来たらと思います。

 

次回は!

・・・まだ何を書こうか決めていませんが

窯焚き始まったのでそのお話とかですかね

 

とにかくこの時期作家(父)は毎日割木運びやら力仕事が多く、

ロキソニンテープ貼り貼り頑張っています。

作家という職業も体力勝負です。

 

ではこの辺で!

 

 

 

 

焼きとその技法

今回は備前焼最大の特色「焼き」について書いていきたいと思います。

 

前回少し書きましたが、備前焼釉薬を使わず素焼きのような状態で焼くので、基本的な焼き色は土を焼いたそのままの色で、赤みを帯びた茶色です。

 

ただし、松割木を燃料とした窯で14日間窯焚きをするため、火の当たり方の違いや、温度の変化によって、同じ窯で焼いてもそれぞれに違う焼きが出てきます。

同じ形のものでも一つとして同じ焼きのものはないということです。

 

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ベーシックな焼き色ですそれぞれ微妙に色合いが違っています

ここが面白いところで、皆さんいろいろと選びながら自分の好きな色合いを探していくわけです。

 

また、釉薬を使わないからこそ、作家たちは様々な工夫を重ね、焼き色の変化をつける技法を生み出してきました。

 

まずは代表的な技法を紹介していきたいと思います。

 

 

緋襷(ひだすき)

 

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ベージュの肌に緋色のラインの組み合わせが美しい焼きです。

この緋色のラインは作品に藁を巻き付けて焼くことで、藁の燃え跡がついたものです。

 

 

桟切(さんぎり)

 

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焼成終了と同時に木炭を入れて還元状態を作り、部分的に白や灰色の景色をつける焼き方です。

 

 

窯変(ようへん)

 

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窯の床で作品が灰に埋もれることによって、酸素の通りが悪くなり、燻される様に焼かれることで、青色や灰色、鼠色に発色します。

 

写真の花入れは、床に転がす際、クッションとして耐火度の高い土を置くことで、その跡が鮮やかな緋色に発色しています。

 酸素の通り具合により、発色が様々に異なるため、一つの作品の中にたくさんの景色がが楽しめる焼きです。

 

胡麻(ごま)

 

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燃料である松の灰が、窯の中で自然に作品に降りかかることで、黄色い胡麻のような色となって現れます。

写真の作品は、付着した灰がさらに高温にさらされて溶けて流れるような模様を描いています。

作品によって胡麻の流れ方がそれぞれに違い、その美しさが楽しめます。

 

 

そのほかいろいろな焼きがありますが、代表的なものはこの4つです。

 

自分のお気に入りの焼きを見つけたり、いろいろな焼きの作品を集めたりすることで楽しみが広がるのではないかなと思います。

 

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次回は、焼きについてもう少し。

父オリジナルの技法についても紹介していきたいと思います!

 

 

 

育てる器とは?

ブログ投稿2回目、何を書くかいろいろ悩むところですが、

最初のほうは、備前焼の特色、というテーマで書いていきたいと思います。

 

私よりお詳しい方もたくさんいらっしゃると思いますが、どうぞお付き合いを。

 

さて今日は、

備前焼は使えば使うほど良くなる器」

といわれる理由について。

 

 

よく「育てる器」、と言われますが、これはどういうことなのか

 

未使用のものと使ったものを比較してみます。

 

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ティーポット 未使用

 

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我が家で使っているティーポット


未使用の状態に比べ、色が深くなり、つやが出ている感じがわかりますか?

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また写真では伝わりにくいですが、ザラザラした手触りから、なめらかで手になじむ手触りに変わっています。

 

これは備前焼釉薬をかけない陶器であるから。

 

釉薬とは、器を成形した後、表面にかけるガラス質のコーティングのことであり、器の強度を上げるだけでなく、種類によってさまざまな色合いを出したり、その上に絵付けが施されたりします。

 

対して備前焼は、いわゆる素焼きの状態であり、表面に小さな穴が無数に開いているようなイメージです。

これを使い続けることにより、摩擦によって、表面が滑らかになり、つやが出てくる、また少しずつ水分が浸透することで色が深くなる、ということが起きるわけです。

 

なので、使えば使うほどその人の手になじむ、その人だけの器になっていく、というわけです。

 

日本は小鉢やお茶碗など、手にもって使う食器が多いので、手触りって意外と重要です。

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小鉢、お茶碗いろいろ

そろそろ寒くなってきたので、いつも使っているマグと温かい飲み物があるとそれだけでちょっとほっとできますよね。

 

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次回は、備前焼独特の”焼き”について書いていきたいと思います!

 

 

自己紹介

初めまして。

 

岡山県備前市にて備前焼の作陶活動を行っております、備前焼作家松井浩之

…の娘です。

 

皆さん備前焼ってご存知ですか?

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三角花入

 

備前焼とは、岡山県備前市を産地とする焼き物です。

絵付けもせず、釉薬も使わず、土を一つ一つ成形したものをそのまま焼くため、土味の素朴さが特徴です。

 

このブログではそんな備前焼の使い方や魅力、豆知識や作陶活動のエピソードなどを書いていきたいと思います。

 

なぜ、作家でもない娘の私がこのようなブログを書いているのか?

 

まず一つは「もっと備前焼のことを知ってほしいから」という思いからです。

生まれた時から当たり前のように身近にあった焼き物ですが、大人になって自分で使ってみるようになって、

「あ、こんなところがいいところなんだ」とか

「こういう使い方はほかの焼き物に比べて備前焼にむいているな」

ということが少しずつ分かってきました。

 

「いいところはあるけれども、使ってみないと、手に取ってみないとなかなかわからないことが多い」

そういう備前焼について、もっと知ってほしいな、という思いが芽生えてきました。

 

もう一つはやはりこのコロナ禍。

 

以前は、店舗や陶器市などにお客様が来てくださり、そこで作品を実際に手に取っていただいたり、作家からのいろんな話を聞いていただいたり、ということができました。でも今は以前通りにはできないですよね。

 

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父はなかなかおしゃべり好きな作家なので、作陶の失敗談や、ちょっとした豆知識などを冗談を交えながらあれやこれやお客様とお話ししていました。

はたから見ていて、そういうお話って結構興味を持って聞いてくださる方が多いんですね。

楽しそうな商売だな、と思っていたものです。

 

が、今はではだんまりの作陶の日々。

 

なのでこのブログでは「作家の雑談、もしかしたらちょっと面白いかもしれない話」

を書き連ねていけたらなと思っています。

 

いろいろ前置きが長くなってしまいましたが、そういうスタンスで、次回からお話を書いていきたいと思います!

興味を持ってくださる方はお読みいただけると嬉しいです。

 

最後に作家の経歴を載せておきますので、ご参考によろしくお願いします。

 

 

備前焼作家・松井浩之プロフィール

1962年 岡山県指定重要文化財松井與之の長男として備前市に生まれる

岡山高島屋、米子高島屋にて作陶展

日本工芸会正会員

日本工芸会中国支部幹事

岡山県備前焼陶友会理事

備前陶心会特別会員

岡山県美術展覧会委嘱作家